コロナウイルスの流行から既に1年半以上が経過した現在、
テレビ・雑誌・ホームページなどで、各専門家の意見・実証実験結果が
数多く発表されてきています。
しかし、逆に情報が多すぎたり、誤解を招くものも多いように感じます。
そこで、今回は4月1日に空気調和衛生工学会ホームページより発表された、
「新型コロナウイルス感染対策としての空調設備を中心とした設備の運用について[改訂三版]」
の記事の内容や、今まで発表されている情報のなかから、重要なポイントを整理してみました。
(前半はコロナウイルスそのものの話がメイン。後半は建築設備の対応についてです)
【空調衛生工学会ホームページ】
http://www.shasej.org/oshirase/2103/covid19-%EF%BC%94.pdf
コロナウイルスとは
コロナウイルスの名称は海外・医療現場では
「COVID19」(コビッドナインティーン)
と呼ばれています。
世間的には”コロナ”の呼称の方が馴染みやすいので本記事でも
”コロナ”の名称で説明していきます。
”コロナ”は、ウイルス形状が王冠のような突起(スパイク)を有するため、
ラテン語の王冠を意味する”corona”という名前が付けられたそうです
コロナの大きな特徴と今わかっている主な感染方法について、
① エンヴェロープ(タンパク質)をもつウイルス 国立感染症研究所HPより (特徴) ● ”アルコール”で破壊することが出来る ● 56℃以上の”加熱”で不活性化する ⇒アルコール消毒が重要な理由
② 飛沫(唾、くしゃみ、咳)直径5nm以上に含まれ、 飛来して接触により感染する (ウイルス自体は直径が100~120nm(ナノメートル)) (対策) ●人間の飛沫の飛沫到達距離はおおよそ1~2m以内 ⇒ソーシャルディスタンス 1~2m の根拠 ●マスク,フェイスシールドで物理的に防護可能
③ 飛沫(唾、くしゃみ、咳)のうち”一部分”が、 直径5nm未満の”飛沫核”となって室内の 空気中を数時間漂うことがある ⇒換気が必要となる理由
つづいてウイルス対策をする上で
最低限おさえとくべき ”感染の基本原則” を解説します。
感染が成立する条件とは?
直接触ったら終わりなの?
「老若男女問わない感染力の強さ」と「恐怖感のイメージ」のあまり、
つい見落としてしまいがちですが、
触ったからといって”100%”感染するものではなく、
”感染”には医学的な基本原則があります。
感染の3要素
この3つの条件が全て揃ってはじめて感染が成立します
逆のことを言うと
どれか1つでも欠ければ感染しない
そうです、どれか1つを『安全・効率的・安価』に対策できれば理想なのです。
ところが、『”コロナ”はそれがうまくいかない』 この要因こそもっとも
恐ろしく、1年以上たった今もなお、収束しない結果を招いています。
赤く塗っている部分が、現在対策が難しいとされる条件です
ワクチンはここ数カ月で飛躍的に接種者数が増えましたが、
まだ十分と呼べる数ではないので赤く塗っています。
つまり、今現在は青く塗っている部分の
『感染経路』を断つ方法しか有効な手段が無い
ということです。
ただし、誤解の無いように補足すると、
これから感染経路の説明をしていきますが、
感染経路の対策もパーフェクトな方法は存在しないので、
今政府が行っている「ワクチン接種」こそが今後
”最も有力な予防手段になり得る” と思われます。
(ワクチンの安全性、変異株の問題は当然ありますが、それらを考慮してもです)
コロナウイルスの感染経路
コロナウイルスの主な感染源は、「飛沫(唾、くしゃみ、咳)」によるものと言われています。
飛沫といっても、伝わり方には大きく3つの種類があります。
空気感染(飛沫核)
空気感染と1口にいっても、感染レベル・粒子の大きさなどの違いにより、
性質が大きく異なります。
一般的に「空気感染」として有名なのが「麻しん、結核」などですが、
コロナウイルスはそこまでのレベルではないと言われています。
(もしも、麻しんレベルであれば、「医療用マスク」「防護マスク」が必要)
コロナウイルスの空気感染は『エアロゾル感染』と呼ばれるもので、
「くしゃみ・咳」の唾液のうち、特に粒子径が小さい ”一部の水分” が
水蒸気として一定時間浮遊することにより伝達する感染経路です。
この粒子径がポイントで、「布マスク」「スポーツマスク」が使用できるのは
一般的なウイルス菌の粒子径よりも”大きい水分”が主な構成要素だからです。
昨年3月当初は、「空気感染」の可能性は否定されていましたが、
中国・アメリカの集団感染の事例により、「空気感染の可能性を否定できない」と
2020年7月に「WHO」が発表したことをきっかけに、換気対策が強く推奨される
ようになりました。
(※注意すべきは、”空気感染のみ”が原因ではなく、複合要因のうちのひとつ
という考えです)
飛沫感染(飛沫) 3つのうちで、”最も感染確率が高い” 感染経路です。 なぜなら、3つのなかで ”最もウイルスの伝播量が多い” かつ ”もっとも直接的に他者に接触(到達)” するからです。 「フェイスシールド・アクリル板(カーテン)」による防止策をとる方法は、 この「飛沫感染」が対象となっています。 (正直、この方法は他の2つの感染経路は防げないので対策としては不十分ともいえます)
接触感染(表面汚染)
1番わかりやすい感染経路ですが、実は感染力の実態は今まで明らかになっていませんでした。
今年4月に発表された、「空気調和衛生工学会」の記事をみると、
いままでは「3~4日も長期間、活性化状態を維持する」といわれていましたが、
実際には「温度・接触する素材面」によっては、
「20~50分のもの、2~3時間のもの、1~3日のもの」など
様々なケースがあることがわかりました。
この結果を踏まえると、アルコール消毒を一定期間ごとに行っている現場においては
「接触感染のリスクはかなり低くなってる」のではないかと言われています。
コロナウイルスへの対策 -3密対策-
それでは、『感染経路』を断つにはどうしたらいいでしょうか?
みなさまご存知でしょうが、
厚生労働省が昨年発表した”3密対策” が有名ですね。
ただし、少し補足すると、「3密対策」はあくまでも
「マスク着用」「こまめなアルコール消毒」をした上での注意事項になります。
このポスターの人たちも、ちゃんと「マスク」つけて、消毒して欲しいなぁ
コロナウイルスと換気 -換気の基準は? 換気だけではダメ?-
建築設備ともっとも関わり深い対策方法は、「換気」です。
では、どう換気すればよいでしょうか。
ここでのポイントは、『換気の悪いとはいえない』と言っているので、
『換気の良い空間』とは言っていない。
つまり最低条件としての目安なので、当然「大きければ大きいほど良い」ということになります。
たびたび強調していますが、何か一つの対策に頼ることは間違っています。
● 換気を十分にとる”だけ”では、コロナ予防にはならない ● 「換気量が少ない=コロナ感染しやすい」 の方程式とはいえない
この部屋は大量の換気がとれているから、
「マスクをとっても大丈夫」「少しは人が密になっても大丈夫」とはなりません。
(よく扉と窓を全開にしただけの居酒屋などみられますが。。。。)
”換気” は予防のための重要な手段ではありますが、
あくまで『”悪条件が揃った場合”に感染を助長する恐れがある』というのが
正しい表現に近いと考えるのが良いと思います。
コロナウイルスと換気 -換気効率を高めるためには-
換気を効率よく行うためには、ただ窓を開ければいいという訳ではありません。
「換気の経路(通り道)」をうまく作ることが重要になってきます。
換気効率を上げる基本ポイント ① 給気口と排気口、片方1つだけでは換気にならない ② 換気の入口と出口を部屋のそれぞれ”対称面”からとる ③ 部屋の対角に給気口と排気口をもうけると効率UP
同じ内容多く含まれますが、
換気について、分かりやすく説明が載っている”ダイキン工業”のサイトも紹介します。
コロナウイルスと空調・衛生設備
換気以外の方法として、建築設備の観点から有効といわれている対策をご紹介します。
① 空気清浄機(高性能フィルター)
② UV(紫外線殺菌ライト)
③ 加湿器
① 空気清浄機には、空気中の埃(ほこり)・塵(ちり)を除去する性能があります。
飛沫核(エアロゾル)として空気中に漂っているコロナウイルスは、
この埃・塵に付着して浮遊していますので、空気清浄機内のフィルターで
捕集(ほしゅう)するのが目的です。
そのため、『 空気感染(飛沫核)』対策として換気と併用するのがオススメとなります。
空気清浄機の使用の注意点としては、
「定期的にフィルターを清掃・交換する」
「部屋が広い場合は複数台設置かサーキュレーターによって拡散・循環気流をつくる」
ことが重要です。
ここで気になる方がいらっしゃるかもしれませんが、
フィルターに付着したウイルスは大丈夫なのか?
循環空気が余計危険にならないか?
この疑問については、各学会・WHOでも当初から注目され研究・見解が発表されています。
結論としては、「フィルターによるマイナス効果は無く、除去効率の方がメリットが高い」
となります。
そして空気清浄機には「+α効果」として、各メーカーそれぞれ特徴があります。
「効果の程度」は正直定量化できないので、過信はしてはいけませんが、
対策アピールとしては良いと思います。(必ずしも必要では無いと思います)
続いて、②UV(紫外線殺菌ライト) についてです。
こちらは完全に業務用の話にはなりますが、アメリカなどの海外で多く取り入れられている技術です。
原理は単純で、”殺菌”効果となります。
注意点としては、
「ライトが当たってる部分にしか効果は出ない」
「紫外線は人体にとっても有害なので取り扱い注意」
「紫外線ランプは消耗品(交換必要・ランニングコストかかる)」
が挙げられます。
商品・製品としては下記のようなものが挙げられます
最後は ③加湿器 について。
こちらは特にコロナウイルスに限定したものではなく、インフルエンザウイルスと同じです。
空気清浄機の時と同じく、
・空気中に浮遊する埃・塵の量を減らすこと
・人間の免疫(のどの乾燥)を低下させないこと
この2点が主な効果になります。
そのため、相対湿度(%)は大きければ大きいほどよいですが、
不快感や加湿器設置コストも考慮すると、ビル管法の40~80%程度
あれば十分かと思います。(夏は湿度高いので不要になると思います)
まとめ
ずいぶんと長文記事になってしまいましたが、
全てを説明しきることは出来ませんので、この記事も情報のひとつとして
参考としてください。
(今後も少しずつ更新するかもしれません)
あとCO2濃度と換気量についてはまた別の記事でコラムをかきたいと思います。